YAMAHA SG-175 ── SGの原点を弾く
1976年製 YAMAHA SG-175 を手に入れました。SG-2000 の影に隠れがちなこのモデルこそ、現行まで続く YAMAHA SG のデザインと思想の出発点でした。当時のカタログを掘り起こしながら、「SG はすでに SG-175 で完成していた」という仮説と、その音を弾いた実感を書き留めておきます。
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SG-175を購入
YAMAHA SG-175を、横浜まで足を運んで手に入れました。 今購入しないと、もう出会えないと思ったためです。
シリアルナンバーは「38」で始まります。資料に照らすと1976年製です。 SG-175は短い製造期間のなかで何度か細かい仕様変更を受けており、本機はリア側エスカッションが高さのあるタイプを採用した、いわゆる後期(第3期)仕様にあたります。ピックアップ裏面には「50.12.12」のスタンプ ── 昭和50年(1975年)12月製造 ── が読めるので、75年製のピックアップを積んだ76年製の個体、ということになります。
折角なので弾いてみました。 音の傾向はSG-1000/2000/3000より若干甘めな印象です。
SG-175とは
YAMAHA SGといえば、後年の名機 SG-2000/3000 が広く知られています。ですが、現在まで続くあの左右対称ダブルカッタウェイ/アーチドトップのデザインを最初に確立したのは、SG-175でした。それ以前にも "SG" の型番は存在しましたが、いま我々が「YAMAHA SGの顔」として思い浮かべるフォルムは、ここから始まっています。
発売は1974年11月。製造はおよそ1976年6月まで、期間にして1年半ほど。総生産本数はたった約600本といわれる希少なモデルです。
当時のヤマハ純正カタログを見ると、SG-175は「ハンバッキング型最高級モデル」、キャッチコピーは「SUPER SESSION」。価格は135,000円。主な仕様は次のとおりです。
- ピックアップ: ヤマハ スーパーハンバッキングマイク #3165A × 2
- ボディ: ホンジュラスマホガニー(ハンドクラフトアーチドトップ)
- ネック: ホンジュラスマホガニー完全セットネック
- 指板: 黒檀(カーブ250R)/洋銀22フレット
- インレイ: メキシカンシェル象嵌(ボディライン・ポジションマーカー)
- ペグ: グローバー ゴールド糸巻
- コントロール: VOL×2、TONE×2
- スケール: 628mm / 重量: 3.8kg
- 純正指定弦: アーニーボール・スーパースリンキー(= 9〜42)
木材選定からして本気です。ホンジュラスマホガニーのボディとネック、黒檀指板。当時のヤマハが海外メーカーに真正面から挑もうとしていたことが、スペック表から伝わってきます。
ここで面白いのは、SG-175の個性が「175で突然生まれたものではない」ことです。同じカタログには下位機SG-50/70/90が載っていて、ハンバッキングピックアップ、完全セットネック、マホガニー系ボディといった175の特徴は、すでにこのラインで確立されていました。カタログの見出しは、はっきりとこう宣言しています。
オリジナリティ。これがヤマハの主張です。
その「オリジナリティ」として挙げられているのは、ざっと次の3つです。
- 独自ピックアップ ── アルニコ合金をヤマハ独自の方法で着磁した超異方性磁石。外磁に影響されず、巻線の材質・巻き方・巻き数まで作り込んだ安定性能。
- クリアネス効果 ── ボリュームを絞ってもコードカッティングの高域がカットされない回路。弾きやすい位置に配置されたボリューム。
- 完全セットネック+スリムネック ── 握りやすさとハイポジションの演奏性。本来は高級機にしか使えない要素を全機種に。
アルニコ、クリアネス回路、完全セットネック、スリムネック、そして細い弦。SG-175が体現していたのは、クリアで軽快、倍音重視、演奏性重視という思想でした。
SG-175 vs SG-2000
SG-175がSG-2000のルーツであることは、ヤマハ自身が公言してきました。SG-2000発売当時のカタログには、こうあります。
SG-2000 の歴史的なルーツを探る上で忘れられないのが、現在 "幻の銘器" と呼ばれている1974年発表のプロフェッショナルモデル SG-175
1974年の来日時にCarlos SantanaがSG-175を手にし、その要望から生まれた通称 "ブッダSG" を市販化したのがSG-2000とされ、系譜は一本の線でつながっています。
ところが「ルーツ」と「完成型」は、コンセプトの上で地続きではありません。実際SG-2000/3000は4.5Kg近い個体が大半ですが、今回入手したSG-175は4.0Kgを切っていました。
| SG-175 | SG-2000 | |
|---|---|---|
| ネック | 伝統的セットネック | スルーネック(Tクロス構造) |
| ボディ構造 | パンケーキ構造のオール・ホンジュラスマホガニー | マホガニーバックに固いメイプルトップを貼り合わせ |
| ブリッジ | 通常のブリッジのみ | ブリッジ下にサスティーンプレートを埋込 |
SG-2000は、サンタナの「軽すぎてサスティーンが稼げない、もっと堅牢に」という助言を受け、ロングサスティーンを得るための装備で固められました。メイプル+マホガニーとレスポールに近いレシピへの接近で、ヤマハ公式も狙いを「サステインを最大に」と明記しています。
対するSG-175は、オールマホガニーのシンプルな作りです。軽いボディに仕掛けを足さない素性が向くのは、クリアで軽快な倍音重視の鳴りです。しかもこれは175だけの個性ではありません。独自ハンバッカー、完全セットネック、スリムネックという175の核心は、すでに下位機のSG-50/70/90で確立され、いずれもサンタナ来日(1974年)より前から存在していました。当時のカタログでもこの仕様を「オリジナリティ。これがヤマハの主張です」としています。
SG-2000はある意味で、175の延長ではなくサンタナの助言をきっかけにした明確な方向転換だったのです。
もっとも、それが間違いだったわけではありません。SG-2000は1978年6月の『Guitar Player』誌の表紙に、サンタナに抱えられて登場します。「現行で最高のロック用量産ギター」と評され、ギブソンの同等機より2割以上安い価格も追い風でした。レスポールがハードロックに収まっていったのに対し、SG-2000はフュージョンからレゲエ、ニューウェイブまでジャンルをまたいで使われ、リードギター全盛の1970年代末から80年代初頭の空気によく噛み合っていました。
逆に、いまの耳で面白いのはSG-175のほうかもしれません。深く歪ませるより、クリーンやクランチの抜けとアタックで聴かせるローゲイン寄りの現代的な音づくりには、軽くクリアで倍音のよく出る175の素性のほうが合うように思います。半世紀前に軽快さと倍音を選んだ一本が、回り回って今の音楽にフィットする。そう考えると、この古いギターを手に入れたのも、悪くない巡り合わせでした。
ヤマハの失敗
そのSG-2000を頂点としたSGシリーズも、2000年代の終わりにかけて、しだいに存在感を失っていきます。
2000年以前はレスポールに似た方向の作りのよいコストパフォーマンス機という立ち位置でした。 ところが2008年のリーマン・ショック以降、円は一気に強くなりました。2007年に1ドル120円台だった為替は2009〜2010年には80円台で高止まり、本家ギブソンがぐっと身近な価格になりました。「似た音を狙うなら、いっそ本物のレスポールを買うか」。そう考えた人も少なくなかったのではないか。ここは私の推測ですが、そう思えてなりません。
円高がじわじわとSGの値ごろ感を削っていった先で、2010年2月、ヤマハはTクロスメイプル構造のスルーネックやサスティーンプレートの埋め込みなど生産に手間の掛かるSGシリーズの生産完了を発表します。 同年9月には後継として、伝統的なセットネックに標準的なブリッジを持つSG1820を中心とする新しいSG1800シリーズへと切り替わりました。
ところが、このモデルチェンジ後のSGは、ユーザーのあいだで評判が芳しくありません。 SG-2000/3000のTクロスメイプルのスルーネックやサスティーンプレートと言った特徴的な仕様を捨てコンター加工まで省かれては、ユーザーには価格は上がったのに「手抜きモデル」と見なされたからです。
しかも、よりよってキャッチフレーズが「ロック志向の新しいSGシリーズ」です。 時代はクロスオーバーでローゲインの音楽に向かっているのに、「ロック」とは如何にズレていたか。 かつてのSGがもっていたクロスオーバーなイメージを捨て去って、これはまさに「レスポールの模倣」になってしまいました。
では、ヤマハはどうすべきだったのでしょうか。
私は、1970年代にYAMAHA SGとして育てた独自ハムバッカー、セットネック、完全対称のダブルカッタウェイのオールマホガニーボディ ── つまりSG-175が掲げた「オリジナリティ」の仕様に戻し、「あの銘器 SG-175への回帰」と謳うべきでした。
ヤマハは「SG-2000こそ完成形」と神話化してしまいましたが、その伝説の中でSGのルーツとしてSG-175も「幻の銘器」と伝説にしているのです。 この伝説を活用すべきでした。
堂々と「175への回帰」とうたっていれば、チャンスはあったはずです。たとえば不評を買ったコンター加工の省略にしても、「SG-175譲りの伝統仕様」と言ってしまえば、誰も省コストとは受け取らず由緒ある仕立てとして通ったはずです。 同じ一手でも、語り方ひとつで「手抜き」にも「伝統」にもなります。
その上で、REVSTARで見せたようなチャンバー構造やIRAといった現代的な技術を盛り込んでいれば、半世紀前のオリジナリティと最新の技術が両立した一本になっていたはずです。 そうすれば、半世紀にわたって受け継がれてきたヤマハの銘器として堂々と世に問えたのではないでしょうか。
そして何より、ヤマハのフラッグシップがSG1820とREVSTARに生き別れる、という妙なことにもならなかったはずです。
弾いてみた
さて、能書きはこのくらいにして ── 実際に弾いた話です。
購入時、本機には10〜46が張られていました。おそらく販売店が、定番のゲージで張ったものでしょう。 実際の純正指定は9〜42なので、張り替えました。 テンションが緩み、右手の入力に素直に反応するようになって、コードを弾いたときの倍音の鳴り方が変わります。「ああ、これがカタログの言う軽快さか」と腑に落ちる感覚がありました。設計者が想定した弾き味に戻す、というのはこういうことなのだと思います。
この9〜42という数字自体、SG-175の思想がにじむところです。サスティーンを狙う定番のレスポールがメーカー標準10〜46なのに対し、ほぼ同じスケール(約628mm)のSG-175はあえて細い9〜42を純正指定にしています。出荷時の一本の弦に至るまで「サスティーンではなく軽快さと倍音」という立場を貫いていたわけで、たかが弦、されど弦です。まぁ、もしかすると、ネックの強度への配慮だったのかもしれませんが。
音そのものは、想像よりずっとパワフルです。スーパーハンバッキングマイク #3165Aはフルテンでディストーションともよく合います。そしてボリュームポットに組み込まれたハイパスフィルター(クリアネス回路)が効いていて、ボリュームを絞っても高域が痩せません。 半世紀前の設計とは思えない実用性で、絞り切る手前の絶妙なゲインコントロールができます。シャープなカッティングから、ロングサスティーンを活かしたリードまで、ちゃんと一本でこなしてくれます。
コンディションも良好でした。12フレット上の弦高は1弦側約1.5mm/6弦側約2.0mm、トラスロッドは余裕あり、フレットは約6分山。50年選手としては上等です。
鳴りは従来のSGシリーズより甘い気がします。今ではおそらく決して入手できない、質の良いホンジュラスマホガニーのおかげでしょうか?
カタログが半世紀前に宣言した「オリジナリティ」は、ちゃんとこの個体のなかに生きていました。SGはすでにSG-175で完成していた ── そう感じながら、今日もこの茶色いボディを抱えています。
References
- ヤマハ エレクトリックギター カタログ(1975年). 「The World of Musical Instruments Brochures」
- Stephen Delft. "Yamaha SG-175". International Musician & Recording World, October 1975