不誠実なスバルという自動車メーカー
抽選でしか買えない限定車、建前ばかりのMT戦略、揺れ続けるEV方針。「硬派で実直」を看板にしてきたスバルは、いつからこんなに不誠実になったのでしょう。長年のファンとして覚える違和感の正体を考えます。
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最近のスバルには、どこか良心がなくなったように思います。
スバルの動きを追ううちに、共通する一本の線が見えてきました。 その線をひとことで言えば、「商売の都合を理念の言葉で包む」という振る舞いです。 スバルが長く掲げてきた「硬派で実直」という看板と、実際の動きとの落差が、年々大きくなっているように感じます。
抽選でしか買えない特別仕様車
まず、抽選販売の特別仕様車です。
本日、スバルの限定車WRX STI Sport♯の抽選結果が発表されました。600台限定のところに、1万人以上の申し込みがあったと言います。年初にもBRZには2種の限定車(Type RA、100台と200台)が用意されていました。一体、いつまでこんなことを続けるのでしょうか?
本来「欲しい人に届ける」ための仕組みが、希少性を演出して話題を作るための道具に転化していると感じます。供給制約という事情はあるにせよ、買い手を「当たればありがたく思え」という立場に置く商法は、かつてのスバルが持っていた実直さとは別物です。
ラインナップしないMTという建前
なかでも問題だと感じるのは、MTの扱いです。
以前はスバルと言えばMTユーザーの比率が高いメーカーでした。
よく言われるのは「アイサイトとの統合上、どうしてもCVTでなければ安全を担保できない」という技術的な信念です。これに基づく方針であれば、筋は通ります。安全のために趣味性を捨てる、という選択は、それはそれでスバルらしい選択です。
ところが現実は違います。北米のWRXは6速MTを当たり前にラインナップしています。 国内ではS4をCVT専用にしておきながら、ときどき限定車やコンプリートカーの形で、MT的な飛び道具を投入してきます。 これでは「安全のためのCVT」という建前は、結局のところ「数の出ないMTを通常販売はしたくない、ファンの熱は限定品で回収したい」という本音の覆いでしかなかった、と見えてしまいます。節操がない、という言葉がいちばん近いのではないでしょうか。
先に触れたとおり、かつてのスバルはMTユーザーの比率が高いメーカーでした。多くのメーカーがMTを車種から外していくいまだからこそ、通常ラインナップにMTを残し続けるだけでも、それはそのまま差別化になったはずです。スポーツカーを一台まるごと開発するより、「うちはMTを続けます」という姿勢を貫くほうが、ずっと手軽にマニアの心をつかめたのではないでしょうか。
結局、メーカーとしての誠意は、こうしたところに現れるのでしょう。
定まらない次世代への展望
いちばん痛々しいのが次世代戦略で、いま現在進行形で揺れています。 その揺れは、EVの2つの系列の扱いにはっきり表れています。
スバルのEVには、いまトヨタとの協業ラインと、完全に自前で開発する独自ラインの二本があります。ソルテラや新型トレイルシーカーが前者で、新工場を建てて2027年ごろからの量産を見込んでいたのが後者です。
独自のEV戦略は、2026年5月15日の決算会見で延期・凍結が発表されました。 これは世界的なEV逆風の影響を読んでの判断でしょう。前年度比90%減の営業利益の現状を鑑みると、合理的な判断とも言えます。
目を引くのは、その独自ライン凍結のわずか1か月前、4月9日に、トヨタとの協業ラインのトレイルシーカーを539万円で発表していたことです。しかもこれは「トヨタ車のお下がり」ではありません。トヨタとスバルのエンジニアが半々で開発し、ワゴンという性格づけはスバル発案、生産はスバルの矢島工場で行われる、スバル初の自社工場製BEVです。協業の枠内では、むしろ関与を一段深めています。
一見すると、独自ラインを凍結しながら協業ラインを深掘りする動きは、矛盾しているように見えます。しかし、需要の読めないEVで単独突破を避け、トヨタとの協業に体重を預けること自体は、体力に見合った合理的な判断です。腑に落ちないのは中身ではありません。そもそもスバル程度の規模で、なぜ独自EVラインまで抱えようとしたのか。その問いに、会社が自分の言葉で答えていないのです。
ここでもマツダの選択は現実的です。 マツダのEV戦略は、一言でいうと「EVに全振りしない」ことを最初から方針として明言しているのが特徴です。土台にあるのが、マルチソリューション戦略とライトアセット戦略の2つです。2030年までを「電動化の黎明期」と位置づけ、エンジン・ハイブリッド・PHEV・ロータリーのレンジエクステンダー・EVを併売しながら段階的に進めるという考え方で、EV一本に賭けません。ロータリーも消さず、発電用(R-EV)として残しています。
スバルの問題は選択の中身ではなく、それを信念として語れていないところにあると思います。 語れないから、始めたりやめたりが、戦略ではなく逃げに見えてしまうのです。
公平を期すために
一応、反論の余地も置いておきます。 抽選や限定商法、ラインナップを絞ったMTの扱いは、いまや自動車業界全体の傾向であって、スバルだけの罪ではありません。EVのリスクを大手に預けるのも、体力のないメーカーとしては合理的な判断です。個別の選択は、どれも単独で見れば擁護できます。
ただ、私の違和感の核は商法そのものにはありません。
「硬派で実直」という看板と、実際の振る舞いとの落差のほうにあります。だとすると、「業界がそうだから」という言い訳は、むしろ罪を重くします。かつてのスバルなら、流行りに乗らないことこそが看板だったはずだからです。
まとめ
良心がなくなった、というのは強い言葉です。ただ、長年のファンとして本当に拭えないのは、もっと素朴な不安のほうです。
スバルがかつて誇った差別化要因は、いま1つずつ効き目を失っています。EVへのシフトが避けられない時代に、水平対向エンジンへのこだわりは、強みというより足枷になりかねません。売りだった四駆も、雪国や悪路でこそ活きる装備で、ユーザーの多くが暮らす都市部では恩恵を感じる場面が限られます。先進運転支援の象徴だったアイサイトも、各社が追いつき、もはや特別なものではなくなりました。
それでいて、目立つ動きといえば抽選の限定車です。本来なら次世代をどう戦うかを語るべき局面で、希少性で話題を作る限定車ビジネスに精を出しているように見えます。土台が削られていることに会社自身がどれだけ向き合えているのか、外からは伝わってきません。
水平対向にこだわり、四駆にこだわり、流行を追わないことを誇りにしていた頃のスバルが好きだった人間として、いちばん気がかりなのはそこです。この会社の次世代は、本当に大丈夫なのでしょうか。