千葉県産業振興センター令和7年度事業報告書レビュー
千葉県産業振興センターの令和7年度決算では、前年度152万円あった会費収入がゼロになり、非常勤専門人材への報酬は約3,800万円増加した。役員一覧には現役の千葉県商工労働部長が非常勤理事として記載され、評議員会は6回中5回がみなし決議。県借入金は約104億円に達し、4月の事業計画分析で指摘した課題が決算でも裏付けられた。
4月に令和8年度事業計画の問題点を指摘した千葉県産業振興センター。その後に公開された令和7年度の事業報告書と決算を読み解くと、わずかな会費収入は消え、非常勤人材への依存は強まり、監督官庁である県の現役商工労働部長が理事に名を連ねていました。計画書では見えなかった実態を、決算から確かめます。
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はじめに
2026年4月に、公益財団法人千葉県産業振興センター(以下「センター」)の令和8年度事業計画について、県の評価で繰り返し指摘されている課題にどう応えているかを検証する記事を書きました(「中小企業支援の中核、千葉県産業振興センターの本年事業計画を評価する」)。
事業計画はあくまで「これから何をするか」の予算書です。その後、令和7年度の事業報告書及び決算報告書が公開されましたので、今回は「実際に何が起きたか」を決算ベースで読み解きます。計画書の文言ではなく、決算という事後の数字で答え合わせをする回です。
本記事の分析は、すべてセンター及び千葉県が一般に公開している資料に基づいています。参照した資料についてはReferencesセクションを確認ください。金額は令和7年度(令和7年4月〜令和8年3月)の決算値です。
なお4月の記事で扱った「17.9億円」は令和8年度の事業計画(予算)上の経常収益です。今回読む令和7年度の決算では経常収益は約15.2億円であり、対象年度が異なる点に注意してください。
4月の記事で指摘した課題(おさらい)
まず、4月に整理した課題を簡単に振り返ります。いずれも千葉県の経営状況等評価で繰り返し指摘されながら、令和8年度事業計画では実質的に対応されていないと指摘したものです。
- 経常収益の94.2%が公的資金で、自力で稼ぐ収益は1.4%にとどまる
- 「自主事業」は文言だけで、研修プログラム開発などへの投資予算がゼロ
- 常勤役員6名はプロパー1名・県退職者5名・民間人材0名で、経営層が県の天下り先になっている
- 県が給与を負担する派遣職員の見直し要請に応えていない
- 非常勤専門人材のスキルに依存し、組織としてケイパビリティを蓄積する仕組みがない
- 達成目標(KGI)も成果指標(KPI)も設定されていない
- 事業間連携を掲げる一方、NDAや情報障壁といった情報管理体制が未整備
これらは「計画書」を読んで指摘した課題でした。以下では、令和7年度の「事業報告書・決算」がこれらをどう裏付けているか、そして報告書を読んで新たに見えてきた課題を分けて挙げます。
事業報告書が裏付ける課題
4月に計画書を読んで挙げた課題は、決算でもそのまま確認できました。
- 非常勤専門人材への依存拡大
- 事業費の「報酬」が令和7年度319,325,686円で、前年度比で約3,800万円・+13.5%の増加
- プロパー職員の人件費(給料手当)は約209,559千円で、外部人材への報酬がこれを上回る
- 借りたスキルを組織に蓄積・継承する仕組みは、報告書にも記載なし
- 「自主事業」が収益事業の規模に達していない
- 外部向けの技術経営実践講座は、各回の受講者が11名前後にとどまる
- 単価や原価までは決算から読み取れないが、有償の収益事業として成立する規模には届いていない
- 経営層の県OB構成は不変
- 常勤理事6名はセンター内部の肩書で占められ、民間からの登用なし
- 県評価が求める「民間人材の役員起用」は令和7年度末でも未実現
事業報告書から新たに見える課題
ここからは、4月の計画書分析では見えなかった、報告書・決算ならではの課題です。
- 会費収入が消滅
- 前年度に1,520,000円あった受取会費が、令和7年度はゼロ
- 「ちば新事業創出ネットワーク」に741社・機関が参加するが、会費収入はない
- 数少ない自主財源をまた1つ失った形で、背景の説明もない
- 監督官庁である県の現役幹部が非常勤理事を兼ねている
- 役員一覧に、非常勤理事として現役の千葉県商工労働部長が記載(事実)
- 所管部長が外郭団体の非常勤理事を兼ねること自体は、いわゆる充て職として珍しくない
- ただし県評価が「外部の視点やチェック機能のための民間人材の役員起用」を求めるなか、監督する側の幹部が役員に加わる構図は、独立したチェック機能との関係で利益相反が懸念される(論評)
- 非常勤員が常勤職員を数で上回る
- 常勤の役職員64名に対し、非常勤の嘱託員は113名(合計177名)
- 非常勤が常勤の約1.8倍。プロパーより外部人材のほうが頭数で多い
- 評議員会の多くがみなし決議
- 評議員会は年6回のうち5回が「みなし決議」1で、対面開催は1回のみ
- 理事会も7回中3回がみなし決議
- 書面決議は法律上の正式手続きだが、ガバナンスの要である評議員会が対面で審議・討議した場は年1回にとどまる
- 県借入金は約104億円、負債面でも県に依存
- 決算注記で千葉県を「支配法人」と明記
- 補助金・委託金に加え、県借入金が期末残高で約104億円
- 元気づくり基金・農商工連携基金の原資にあたり、基金の積立資産を担保に供している
- 基金を構成する債券に約6億円の評価差損(含み損)
- 満期保有目的債券の時価が取得時より合計で約6億円下回っている
- 満期まで保有すれば実現せず、当期損益にも影響しない。途中売却や発行体の信用悪化があって初めて顕在化する性質のもの
- とはいえ運用益を事業財源に充てる構造ゆえ、金利環境によっては基金からの収益が伸び悩む余地は残る
まとめ
令和7年度の事業報告書と決算は、4月に計画書を読んで指摘した課題を、事後の数字としておおむね裏付けました。非常勤専門人材への報酬は約3,800万円増え、自主事業の収益化は依然として遠く、経営層の県OB構成も変わっていません。
そのうえで決算からは、計画書では見えなかった新たな課題が浮かびました。わずかに残っていた会費収入は消滅し、役員一覧には監督官庁の現役幹部が理事として並び、評議員会は年1回しか実質開催されず、財務は約104億円の県借入金に支えられています。
4月の記事では「県の指摘に応えていない」ことを問題にしました。今回の決算は、その指摘に応えるどころか、わずかな自主財源すら細らせていることを示しています。自力で稼ぐ収益が減り、外部人材への依存はむしろ強まる。中小企業に経営改善を説く立場の組織が、自らの構造改革には手をつけられていない。この実態をどう受け止め、どう関与方針を見直すのか、改めて県の説明責任が問われます。
References
- 千葉県産業振興センター「令和7年度 事業報告書及び決算報告書」
- 千葉県産業振興センター「令和6年度 事業報告書及び決算報告書」
- 千葉県 「公益財団法人千葉県産業振興センター|経営状況等の評価結果の公表(令和6年度・令和7年度)」
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みなし決議(書面決議)は、理事や評議員が実際に集まらず、提案に対する書面等での同意をもって決議があったものとみなす方法。一般社団・財団法人法に基づく手続きで、機動的な意思決定に用いられる一方、対面での審議・討議は行われない。 ↩